関東一部リーグに所属するサッカーチームの選手であり、ハウスクリーニング店の社長
エスペランサSC トップチーム 江川真矢選手
エスペランサSCトップチームに所属する江川真矢選手は、相手の攻撃の芽をつぶして味方にボールをつなぐ、チームの黒子のような役割を果たす選手だ。昨年は怪我の影響もあり出場試合数は限られていたが、2022年1月に足首の手術も終え、今年はより多くの試合出場を目指し、トレーニングに励んでいる。そんな江川選手には、ハウスクリーニングやオリーブオイルの輸入販売などを手掛ける株式会社EG-Puenteの社長という、もう1つの顔がある。困難に思える二足の草鞋を履くという選択は、江川選手がサッカーに軸足を置き、エスペランサSCと共にJリーグ入りを目指すという夢の実現のためだった。
江川選手がサッカーを始めたのは幼稚園の頃から。小学生時代は地元のサッカークラブに所属し、中学生時代は神奈川県内のクラブチーム東急レイエスFC、高校は神奈川県の名門桐光学園に進学した。しかし、サッカーの本場である欧州でサッカーを学びたいという想いが募り、同校を1年で辞め、スペイン、イタリアへ海外留学。両国ともに、サッカーが国民にとって生活の一部となるほど定着しており、クラシコと呼ばれるレアル・マドリード対バルセロナの黄金カード等の試合時刻になると、選手は練習を中断して名試合を見入っていたという。所属チームの消滅やビザの関係でスペイン、イタリア、日本、スペインと行き来した江川選手は約3年間、本場のサッカーに揉まれ、2016年に帰国した。
帰国後もサッカーを続けることを希望していた江川選手は、中学生の時に選抜を通じて知り合い、友人となった北野智貴選手から自身が所属するエスペランサSCについて紹介してもらい、スペイン語に馴染みがあることから、同じスペイン語圏であるアルゼンチン出身のオルテガ監督が指導しているエスペランサSCへの入団を決めた。Jリーグに所属するチームへの練習にも参加したが、留学時代は試合に出場できないことが多かったため、90分フルで試合に出場したいという想いが強かったことも大きな理由だった。
入団後、江川選手はエスペランサSCで特に印象に残ったことが「これまで監督はドン、とふんぞり返っているイメージだったが、オルテガさんはチームで誰よりも頑張って動いているのが目に見えてわかった。社会人になっても、自分たちの家族、子どものようにサッカーを教えてくれる」と、これまでの江川選手が持つ監督像とは異なるオルテガ監督の姿勢だったという。これは、オルテガ監督がグラウンドの整備やクラブハウスや選手が着替えるスペースなど自身が率先して製作するなど、「信仰とは行動が伴わないといけない」と話し、背中で語ってきたオルテガ監督の哲学を、裏付けているように改めて思えた。また、江川選手は「選手たちの距離も近く、年齢やキャリアでの上下関係がなく、若手でもベテランに対して委縮せず意見を言えるなどフラットな関係ができている」と、エスペランサSCの魅力を感じたという。
江川選手は帰国後、当初は会社員として工務店で勤務する傍ら、エスペランサSCに所属していた。しかし、Jリーグ入りを目指し強いチーム作りをしているエスペランサSCは午前中に練習を行うこともあり、両立が難しいことを感じた江川選手は独立を決断したのだった。それは「仕事はサッカーのない時間で 」というサッカー選手により軸足を置くための決断であり、エスペランサSCで上を目指すという強い意欲からだった。入団1年目は、エスペランサSCからJリーグに所属する他チームにステップアップするという考えもあったが、2年目、3年目とエスペランサSCで所属する期間が長くなっていくことでエスペランサSCでの居心地の良さを感じるようになっていき、「このチームならできる」「このチームと上に行きたい」という想いが芽生えたという。「エスペランサSCは技術的な足元のレベルでは関東リーグで高い方ではないかもしれけれど、それでもほかの元日本代表の選手を獲得しているチームにも勝てている。勝ちたいという気持ちはどこのチームにも負けない。サッカーは技術だけでないということを証明できている」、とチームの強さを表現する。勝利への執念は、独特の熱量と球際に強いと言われるエスペランサSCのサッカーのカラーになっているのだろう。そんなエスペランサSCの魅力やオルテガ監督について「こんな良いチーム、すごい人が日本にいることを知ってほしい」と話す。
江川選手は、小中学生時代に所属していたクラブチームがトップチームを立ち上げると知り、その立上げに関わるため2020年に、一度エスペランサSCを離れる決断をしたことがある。それでも、エスペランサSCの関係者との絆は繋がれていた。同年のシーズンが終わり、江川選手が所属していたチームの昇格は叶わず、オルテガ監督から野七里に来るように連絡があったという。グランドに呼ばれた江川選手はオルテガ監督から「戻ってこい」と古巣に戻って来るよう声をかけられた。江川選手は同年怪我に悩まされ、トップコンディションではなかったことから逡巡したが、オルテガ監督の強い想いに触れ、100%以上の状態になって試合に出ることを決断し、2021年からまたエスペランサSCの一員として奮闘した。怪我のため、同年の試合数はわずかにとどまったが、2022年はコンディションを上げて「チームに貢献する」とその意気込みを強く語っている。
江川選手は、エスペランサSCに入団して、以前より物怖じしなくなったと自身の変化を語る。何か新しいことに取り組むときも「やればできるんじゃないかな」と、チャレンジへの不安よりもワクワクを感じるようになったという。かつてエスペランサSCでトレーニングルームを作ったという話が出た時、「スポンサーを募って作ってもらうよりもまずは自分たちでできる所まで作ろう」と、オルテガ監督は話し、自身で制作を始めたという話を聞いた。そんなオルテガ監督の背中を見て江川選手は、スペイン留学時からコーヒーが好きだったこともあり昨年に東京都内にカフェをオープン。元々建築の知識があった江川選手は自身でカフェの建物を作ったという。「自分たちでできるところまでやろう」オルテガ監督の哲学が受け継がれているように思えた。
次回は、エスペランサSCに通う子どもたちの父親であり、自らもトップチームの試合に毎回のように応援へ駆けつけるエスペランサ・ファンの長谷川さんに話を伺う。
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