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オルテガというサッカー選手を知っているだろうか?

 オルテガというサッカー選手を知っているだろうか?1988年にアルゼンチン代表に選出され、あのマラドーナとプレーした経験を持つアルゼンチンのスターだ。同じ頃にアルゼンチン代表に選ばれ、2010年にはアルゼンチン代表の監督として北京五輪で母国に金メダルをもたらしたセルヒオ・バティスタ氏とは今でも連絡を取り合う仲である。


 そんなオルテガ氏が日本に訪れることになったのは、日本のキリスト教会の牧師から日本の青少年の自殺率が高いことを聞いたことがきっかけだった。自身の子供が同じ年代だったオルテガ氏は衝撃を受けた。まだ現役のサッカー選手であったオルテガ氏はすぐに日本に行くという状況ではなかったが、この衝撃とその後の決断は不思議なこととして思い出される。


左からグスタボコーチ、ホルヘ・アルベルト・オルテガ監督、宮﨑亮専務

 キャリアの晩年に差し掛かったときに、オルテガ氏は、神様が自分を何かのために選んだと感じた。何かをしなければと思った。不思議なできごとであった。「すべてを変えられるかはわからない。でも自分が行く場所だけでも変えよう」と決意し、1994年、躊躇なく即座に家族を伴い来日することとなる。鳥取県倉吉市のサッカークラブで5年間、少年サッカーを指導した。だが、指導を終えたオルテガ氏はアルゼンチンに帰国、名門ボカ・ジュニアーズのジュニアチームなどでコーチとして指導にあたるなど、日本との関りは遠ざかっていった。そうした時、知り合いの牧師に「あなたは日本に戻らなければならない。まだ日本でやることが残っている」と言われる。はじめは「何を言っているんだ」と感じたが、しばらくして自身の気持ちに変化がおき、体はアルゼンチンにいても心は日本にいるという気持ちになっていったという。


 2002年の日韓ワールドカップを契機に再来日し、本郷台キリスト教会との出会いを経て翌年エスペランサSCを開くこととなる。スペイン語で希望という意味である「エスペランサSC」は、2003年、横浜市栄区に、日本の青少年のためのサッカースクールとして設立された。オルテガ氏はスポーツを通じて日本の子どもたちに「希望」や「目標」を与える助けになりたいとの思いで、同チームの監督に就任。これまで延べ3000人を超える青少年に「プロとしての選手である前に、プロの人間であれ」という自身の信念を伝えてきている。教え子の中にはJ1チーム川崎フロンターレで主力選手として活躍し、2021年3月に日本代表に初選出された脇坂泰斗選手もいる。


 導かれるようにして辿り着いた日本。荒れ果てた場所に緑の芝のビジョンを見て今のグラウンドを持つに至った過程。Jリーグを目指すまでのチームを育てチャレンジを続けるエスペランサ。なぜ、どのようにして、オルテガ氏は自らの人生を大きく変えることになる決断をし、あり得ないと言われることを達成してきたのだろうか?


 アルゼンチンの北西部にあるフフイ州で生まれ育ったオルテガ氏は、親から1歳の誕生日プレゼントでサッカーボールをもらうなど幼少期からサッカーに明け暮れて育ち、16歳でプロデビューを果たした。自分にできるのはサッカー、だからサッカーを通じて子供たちの成長を助けたいと、オルテガ氏は言う。大切なのは信じてチャレンジすること。それは人生の後になって本当だったと分かる時が来ると言う。


 敬虔なクリスチャンであるオルテガ氏は「信仰とは行動が伴わないといけない」と話す。はじめは雑草やゴミなどで荒れている教会の駐車場を借りて指導しており、子供たちが怪我をしないよう、オルテガ氏は毎日駐車場の掃除をしていた。そんなオルテガ氏の姿をとある地主の知り合いが見ていて、土地を売ってもいいと許可が出たという。その土地はいつかエスペランサのグラウンドになるとオルテガ氏が思い描いていたグラウンドだった。オルテガ氏の行動力は徹底しており、今あるクラブハウスや選手達が着替えるスペースも氏の手作りだ。初めて人工芝の手入れを行ったときも業者の工法をつぶさに確認したあとは、自分たちでメンテナンスを行う。オルテガ氏の話す行動力が人々を惹きつけるのだと感じさせるエピソードだ。



 「日本では親子間のコミュニケーションが少ないんじゃないだろうか」20年を超える日本での生活でオルテガ氏が感じてきたことだ。オルテガ氏は、家族間のコミュニケーションをとても大事にしており、それはスクールでの指導にも反映されている。スクールで起きたことは、子どもから自分たちの親に伝えさせることで家族間のコミュニケーションを促している。オルテガ氏自身も、家族が揃っているときなどの携帯電話の閲覧を禁じるなど家族間のコミュニケーションを強く重んじている。スクール外においても明らかに未成年と思われる青少年がタバコを吸っていたら注意をしに行くという、その姿は古き良き時代と言われたころの日本の父親像のようでもあった。


 現在エスペランサSCのトップチームは関東一部リーグに所属。Jリーグ参戦を目指しJFLの昇格に向けて奮闘している。


 オルテガ氏と直接お会いすると、生きていることを肯定されているように感じる。自分の人生でチャレンジする勇気が自らの中にも生じてくるのを感じる。エスペランサSCという出来事は、きっと、そういった人が支え合って未来を切り開いていく何かなのだと感じられる。日本アルゼンチン・ストリートでは、エスペランサSCとは何か、我々を鼓舞するものは何か、オルテガ氏の生きざまから我々は何を受け取っているのか、を関係の方々へのインタビューを通じて浮かび上がらせ、我々が感じた大切な何かを探究し、もっと言葉にして多くの人たちと共有したいと思います。今後もエスペランサの取り組みを伝えていくので乞うご期待!



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